士業・不動産分野を中心としたWEBメディア『街角相談所』シリーズ運営やWEB広告代理業、コンサルティング事業で急成長中の株式会社HIROKEN。
株式会社HIROKEN 代表取締役社長 中濱弘高 氏
2011年、下北沢にある6畳一間のアパートでわずか3人からスタートした同社は、今や社員40人、グループも含めると約100人という大所帯で、2016年は新卒採用も5人となっている。
オフィスのほうは恵比寿を経て、2013年より広いスペースを求めて移転。目黒川、山手通りという人の行きかう活気を見せ、向かいにあるナポリピッツァの行列店をはじめ、話題や刺激にことかかず、クリエイターも多く集まる、この中目黒にやってきた。
右肩上がりの成長を続けて6期目に入った今、こうしたオフィス環境で目指したものとその成果、今後の展望などを、自らも中目黒在住だという代表取締役の中濱弘高さんに聞いた。
“その会社がどうなりたいか”、方針や矜持がオフィス空間に表される
―オフィスデザインは社長が考えられたそうですね。
中濱:もともと大学で建築を専攻していましたので、図面を見ながら内装の色や素材、家具の選定などのプランニングに関わりました。実は、グループ会社として店舗やオフィスデザインの会社ももっているんです。そこでの仕事でも感じることですが、オフィス空間には、社長や会社自身が“何をしたいか、どうなりたいか”など、求めているものが表れるものなんですね。ある社長は、いつも全身を品のいいスーツで決めて、社内でもジャケットを脱がず、室内履きに履き替えることすらされないんです。そういう方のオフィスはやはり、重厚なヨーロッパ調で高級感があふれています。
―こちらのオフィスは、開放感がありますね。
中濱:ワンフロア250坪のうち、150坪ほどでしょうか。内見したときに、この広さが魅力でしたから、なるべく区切らずにオープンな雰囲気を目指そうと決めました。ここにいるHIROKENの社員は40人ほどですが、毎年新卒採用は数人を目安にしていますし、事業の広がりとともに人もまだ増えるかと思うんです。そういう余裕も考えると、移転してちょうど3年になりますが、以前のような手狭感はいまだに感じずに済んでいますね。
―個々の執務デスクのほかの、パブリックスペースが印象的です。
中濱:インターネット事業ですので、内勤者が多いんですね。エンジニアやデザイナーなどのクリエイティブ職だけでなく、営業もクライアントが全国に及びますので、日々のやり取りは社内からスカイプなどで行うことが多いのです。それで、個々が執務に集中できるデスク環境とは別に、休憩や飲食、軽い打ち合わせからブレストまで、気分を変えて行えるようなスペースを作りました。
気持ちをゆるめる装置であり、全員が集える場でもある、オフィスの中の「庭」
―みなさんが「リラックススペース」と呼ばれるだけあって、グリーンのコーナーが広々して、いかにも快適そうですね。
中濱:隣接した大会議室や打ち合わせスペースとは、色使いや素材感も変えて、仕切りはなくても気持ちの区切りが付くようにしています。黒い壁に茶でやや毛足の長いカーペットという引き締まった場所から見ると、そちらは庭のように見えるという遊び心ですね。グリーンのカーペットも濃淡があるので、芝生のようで気持ちいいでしょう? 見晴らしも良いですし。
入社式のシーン
―ここでならアイデアが広がりますね。みなさんが集まれるだけの広さもありそうです。
中濱:たしかに、全員が集える場という意味合いも大きいですね。内定式、入社式などの行事もこちらで行えますし、春には花見をしようと言って、家具を退かせて桜の飾りやシートを用意し、カウンターに料理を並べたり屋台を作ったりして、みんなで盛り上がりました(笑)。こうしたアイデアや企画は大歓迎なので、もっともっと社員にうまく使ってもらいたいですね。
色や素材が思考に与える影響を考え、区切りを付けて硬軟両方を引き出す
―対照的に、打ち合わせスペースのほうは引き締まった印象ですね。
中濱:白い明るい空間にいる時と、黒いダークな空間にいる時とでは、思考や発言も違ってくると思いますし、どちらもわれわれの事業にとっては大切です。間にあるカウンターバーも、その区切りをつけるのによいアクセントになっています。このバーは、錆び加工を施してあって、シャビーな雰囲気が私も気に入っているんです。床もここだけは木材を敷いて、ニスのような塗料で味付けしています。既製品そのままにはしたくなかったし、経年変化でさらに味が増すんじゃないかと思いますね。
―黄色のソファは、かなり大きなものですね。
中濱:このスペースに合わせてサイズを決めてカスタマイズ製作しました。椅子なので、高さや深さなどの座り心地にこだわったのはもちろんですが、工夫のしどころは素材や色でしたね。実は、クライアントのために同タイプのソファをグレーで作ったことがあるのですが、当社のこのダークな空間に置くならば、ビビッドな色にしてみようと思い、赤い椅子は決めてあったので、バランスを考えてイエローにしました。
―このソファで打ち合わせをする方がかなり多いと聞きました。
中濱:パワーのある空間ですから、リラックススペースとはまた違う感じで、グッと集中するのには良いかもしれませんね。ガラスの向こうの大会議室にも言えることですが、場が引き締まっていると、そこで生まれる決定も引き締まったものになるものです。適当な部屋で喫煙しながらでは締まらないというか、そのレベルのものしか生まれないのではと思ってしまいますね。それは、建築を学んだ経験から私自身、形の大切さというものを重視する考えが強いからかもしれません。
仲間の気配を感じながら、個々のひらめきを最大限に
―HIROKENの事業が目指すのは、何でしょうか?
中濱:われわれは、インターネットを通じたデファクトスタンダードの創造をコンセプトとしています。不動産や士業などの既存産業に対して、これまでにない仕組みを提供していこうとしているので、常識にとらわれない柔軟なアイデアや発想が大切なのです。例えば、ロゴマークには2つの思いが込められています。すぐ分かるのは、Oの文字がピカッとしたライトになっていて、ひらめきやアイデアを表していることです。もう一つは、よく見るとアルファベットの文字一つひとつの下が足になっているのです。常に動いていて、歩みを止めない姿勢をというメッセージですね。
―オフィスの開放感に込めた思いは?
中濱:広さもですが、空間に抜けがあることで、仲間の気配というのを常に感じてほしいですね。個で集中するだけでなく、みんなで意見を出し合ったり、他部署の様子も踏まえたりと、仕事ではすべてが関連づけられるべきでしょう。こういう空間によって距離感を縮めたい気持ちもあります。一人ひとりから出てくる意見がプロダクトに反映されるという、ベンチャーならではの事情もありますね。私も役員も、みんなに混じってわいわいと口出ししながら日々過ごしているのも、このオフィスだから自然とできていることかもしれません。
―今後のオフィス展開がもしあるとしたら、どのようにお考えですか?
中濱:現在の空間にはたいへん満足しているのですが、実はここでは、原状回復もしやすいよう、天井などには手を入れていないんです。会社としてはまだまだ途中のステップですが、次のステップがあるとすれば、高さもある物件で、天井も含めたフルリノベーションができたら面白いでしょうね。あとは企業としては当然、ヒカリエや六本木ヒルズのようなランドマーク的なビルに居を構えるのはやはり憧れですね。そんな野望ももちながら、サービスの拡充に努めるなどして、より体制を固めていきたいです。
オフィスと同様、会社のスタンスもオープン。研修や福利厚生も現在進行中
ここからは、同社の経営管理セクター 広報ご担当の山口義史さんに伺います。
―HIROKEN独自の福利厚生制度について教えてください。
山口:当社は平均年齢も30歳に満たない、若い会社ですが、結婚や出産への祝い金などはすでに整備されています。日々のことで言えば、当社サービスにかけて『街角おかし相談所』と言っているのですが、10種以上の菓子、カップ麺などを常設して、割安で買えるのと、コーヒー・紅茶・ハーブティーなどの飲み物は無料です。仕事の合間や打ち合わせ時に利用する社員は多いですね。
また、『ご近所手当て』と言って、3キロ圏内に住む社員には月3万円の補助があります。実際、中目黒や三軒茶屋に住んでいる例もありますが、通勤の負担もなく、家族と過ごす時間も増えて、モチベーションアップにつながっているようです。
―全員で旅行にも行かれたとか?
山口:社員総会を兼ねて、業務としての旅行ですね。昨年は温泉に、今年は沖縄に行ってきました。実は、それ以前には業績が良ければご褒美として、という感じでした。人数が40人と増えてきたことで、制度化しました。旅行の初日は社員総会として、1年の事業の振り返りと来期の計画を共有する形です。会社の状況を理解して、気持ちも新たに一致団結してがんばれるようで、制度化して良かったと思っています。
ほかにも、研修制度も充実を図っているところで、今年からはリーダー研修を始めました。会社の成長に伴って、マネジメントなど管理能力の強化を考えてのことです。外部のセミナー参加や専門書籍購入も会社が全額負担しています。広告運用などは常に新しい技術を学ぶことが必要ですし、われわれが領域としている不動産や法律についても専門知識を付けていかねばなりませんから。
―いろいろな機会が与えられている環境なのですね。
山口:私自身、当社に転職して3年ほどですが、当初は営業職として入りました。もともとは大手の出版社にいましたが、紙媒体だけでなくインターネットのフィールドで様々なことにチャレンジしていきたいというのが転職の理由だったんです。実際、今は営業を兼務しながら、こうして広報として対外的な活動もやらせてもらっています。最近は新規事業についても動き始めているなど、手を挙げれば誰でもチャレンジできる場が与えられていますね。
役員との距離が近いからでもあると思いますが、何かこうしてみたいといった話をすると、良いものであれば制度でも新規事業のアイデアでも、すぐに形になっていく風土だと実感します。例えば、役員と飲みに行って話していると、翌日にはもうできる状態になっていることも、しばしばです(笑)。
今始めようとしているのは、社内部活の制度ですね。私はバスケットボールをやってきたのですが、先日遊びで何人かを連れていったところ、もっとやりたいという声が多かったんです。健康にもいいし、仲間意識も深まりますので、バスケのほかにも野球、フットサル、あとは文系でゲーム部(笑)、そんなところを作ろうと企んでいます。年内には実現させたいですね。
―オフィス環境が開放的なだけでなく、会社としての在り方もオープンなのですね。
山口:社長が言うとおり、経営者や会社の考え方というのがオフィスの形に表れるということなのでしょう。目の前のタスクに集中することも大切ですし、メンバーや他の職種との協力関係も大切です。デスク間にパーティションも置かない、風通しの良い環境で、見回せば仲間の顔がたくさん見えるのは良いことです。また、役員も社員全員のことを本当によく見てくれていますので、適性を考えて仕事を振ってくれたり、下からの声にもきちんと耳を傾けてくれたり。こうした雰囲気を、このオフィスでより醸成していければと思います。
編集後記
取材に伺ったのは始業時間の10時頃だった。ちょうど営業朝会が行われていたが、笑い声なども聞かれ、明るい雰囲気が見て取れた。聞けば、10数人ほどの参加者全員が「昨日あった、うれしかった話」を一人ずつ発表するのだという。プライベートでの素朴な喜びあり、仕事での成功談ありと内容はさまざまだが、毎日続けば互いの人柄やキャラクターも深く知ることになるだろう。一日のスタートを仲間と共有する時間で始められるのも、いいものだ。
HIROKENから生まれる“ひらめき”は、個々がひねり出すだけでなく、こうした仲間たちと考えを出し合い、深め、温めて、掘り下げるプロセスを経て、世に出て行く。居心地の良い、風通しの良いオフィスからは、ニッチな悩みの解決につながる新しい“ひらめき”が、今日も生まれていることだろう。